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愛知建築士会の活動

「水害から考える私たちの暮らし方」セミナー報告 谷村留都

2024-09-10女性委員会

開催日時6月28日(金)講師 中村晉一郎氏

 

冒頭に先生の専門分野として司会が水文学「みずぶんがく」と紹介したが、

これは「すいもんがく」というそうだ。

天文学(astronomy)に対する用語で海外ではHydrologyとして成立していると聞いてみんな驚いた。

水害は土木で扱うが、それに係る暮らしを扱うのは建築で、これからはこれらの融合が更に必要になってくる。

 昨今の例として、2018年の岡山県真備町の例を挙げた。

1970年代の大洪水で真備町を流れる小田川が改修された結果、市街化区域が拡大し人口も増加した。

これは南部にある水島工業地帯の発展や土地価格の理由が考えられる。

一般的に、新しく住む人ほど、浸水の深い場所に家を建てていたことがわかったが、

これは古い家は安全な場所にあるが、後からできた家は危険な場所を選ばざるを得ないといった「本家・分家論」と似たような現象である。

静岡大学の牛山素行教授の「平地に住んでいる人ほど、居住地の安全性を楽観している」という調査結果の紹介が印象的であった。

 洪水は本来、自然な水循環の一コマであり、そこに人の暮らしがあって初めて水害となる。

かつては上流に氾濫エリアがあることで下流エリアを守ったが 開発により上流エリアにも家が増えるとダムや堤防で対応するようになった。それによりある程度対策ができ1960年代以降は死者数が減少してきた。

しかし昨今のように豪雨が増えると、21世紀末には豪雨の頻度が2.1倍になるという予測もある。

 2021年から開始された「流域治水関連法」によると、近代治水では川の中だけで洪水をおさえるとして

[①貯める(ダム)②逸らす(遊水池を作る)③流す(放水路)]

の3つの組み合わせで行われていたが、近年の豪雨の増加に対して治水を行うことに限界があるので新しい考え方に移行した。

▪災害レッドゾーンには家を建てない、

▪市街化調整区域を厳しくする(安易に家を建てない)、

▪流域内での相互関係の構築(県単位ではなく、同じ流域内の上流に下流がお金を払うなどのパートナーシップ)などで、

リスクを認識してどう減らせるかを考え、どこを守るか 優先順位を考えるといったことが今後大切になる。

そして今後は人口縮小によるコンパクトシテイという考え方をポジティブにとらえ価値のあるものに変えていくことが必要になってくる。

 以上の考え方は理解できるが、さて、私たちはどう行動を起こせばいいのか?と一瞬悩んだが、新しい提案として雨庭が紹介された。

簡単に言えば雨水は敷地内で処理をするという考え方でその実行案として、

先生が長年関わっている東京都杉並区の善福寺川の例や、

チューリッヒのバッハコンセプトの紹介があった。

紙面の都合で詳しく紹介できないが、自然が持つ機能を活用して、都市の居住環境を向上したり、

防災、減災力を高めたりしていこうとする新たなインフラ整備の考え方。

この「グリーンインフラ」は欧米を中心に取り組みが推進され日本においても導入の動きが加速しつつあると聞いて、明るい兆しを感じた。

 

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