溶ける建築
縮小社会に突入して、暮らしは常にミニマムである。今は2世帯で暮らすが、将来、大きな家は夫婦2人では持て余す。土の可逆性と木造の可変性、そしてコンクリートの永続性を利用して、RCコアBOXを中心に、木造土壁フレームがそれを覆うことで、室へと開きながら家族が集まる。将来は土壁を溶かし、減築できる家です。
最初は2世帯で暮らし、将来はコンパクトに、ちょうどいい暮らしとは
この先は営みが不確かな時代であるに違いない、暮らし方はシンプルで小さくしていきたい、大きな家はいらないというのが要望であった。また、ここは海岸から近く1mほどの津波の影響があることを施主は知っていた。
土の可逆性とコンクリートの不変性
左官職人の松木憲司さんに、大野町を案内した。朽ちて溶けている土壁を見て、この地域が細い竹しか生息していないこと、土壁の砂の成分が地域の材料であること、さらに、溶けてしまった土壁を再利用することが出来ることなどを教えてもらった。
そこで注目したのは土の可逆性である。雨で打たれて、溶けてなくなったり、練り直して再び土壁として使ったりすることもできる。この土の可逆性を活かして、暮らしの変化がある部分に土壁を用いることとした。一方で最小限スペースには不変的な素材であるコンクリートを使いコアにする。二つの素材の特徴を活かすことで、将来の減築や増築の手助けになる。
可変的な木造フレームと永続的なコンクリートの箱
2世帯で暮らすには少なくとも40坪程度必要だが、夫婦2人であれば20坪程度で十分暮らせる。将来の減築を想定して、家の中心に約20坪のコンクリートの箱を配置した。その箱を覆うように木造のフレームを周辺に張り出すよう配置した。外力はコンクリートが負担することで、木軸は耐力壁が不要となる。コンクリートの箱は、家族の中心の場所でコアである。将来の夫婦2人で暮らす最小ユニットでもある。井桁状のコンクリート壁を少しずらすことで4つのスリットが生まれ、このスリットから室を通して、外へとつながる。みんなが中心に集まる時には、意識的に室を開くことで、コンクリートの箱でも閉ざされることなく、快適に過ごすことができる。
井桁に組まれたコンクリートの箱 ―可変性と開放性を有する壁式鉄筋コンクリートコア−
本建築の構造計画を行うにあたり、計画上「津波にも耐えうる牢固なコンクリート造」と「可変性が高く、開放的な木造の要素」を要求された。これらの要求を満たす為、4枚の壁要素を井桁に配置した壁式鉄筋コンクリート構造のコアを中央に配置し、鉛直力のみを支える木造の架構をコアのスラブにアンカーする構造とした。 木造部分は水平力から解放される為、耐力壁が無い開放的でシームレスな空間を実現し、自由に増改築可能となっている。コアと木部材は、それぞれの通芯がずれていることから、コアのスラブの上に大母屋が載ることによって鉛直力を伝達し、水平力もスラブにアンカーすることによってスラブを介して耐力壁に応力を伝達している。象徴的な中央の柱は、屋根の頂点を支える高軸力の大黒柱で、これはスラブを介することなく基礎に直接応力を伝達させている。
愛知建築士会名古屋北支部所属建築士
1964年愛知県生まれ
建築家
株式会社国分設計を経て(有)裕建築計画を設立。中部大学、椙山女学園大学の非常勤講師。
審査員として、セラミックス・ライフ・デザインアワード2016・2018・2020年
受賞歴に第25回すまいる愛知住宅賞、名古屋市長賞「工場から家」、LIXILデザインコンテスト銅賞「工場から家」、第6回JIA東海住宅建築賞「毛鹿母の家」大賞、2018年JIA優秀建築賞「工場に家」、日本建築士会連合会賞 奨励賞「工場に家」など多数